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#音と声の呪力 連続レビュー⑨

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古代のシャーマンや宗教家が、楽器や声で神降ろしするときに、必ずこの「倍音」の仕組みが応用される。
倍音とは、目的の音に対し、それより高い音が上に乗ってきて重なること。
理論としての倍音が整数次倍音なのに対して、自然に乗ってくるノイズとか上音といわれる非整数次倍音こそが重要となってくる。
大陸的な西洋や中国では、ここでも音の響きの美しさにこだわるが、古代人はこのノイズ系の倍音を意識的に多用し、霊的エクスタシーで神懸かるすさまじさだった。
世界中で失ったこの響きの感性を、唯一、日本人は今でも持っている。
それが、琵琶や三味線や尺八の、あの歪んだ音なのだ。
琵琶や三味線の原型が中国に残っているが、それは澄みきった音。
それが我慢できず、沖縄を経由して伝来してきた楽器に、日本人は手を加えていった。

 

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それは「サワリ」という山と谷の細かい構造をわざと作り、弦が精妙に触れる=サワル装置。
このサワリが魅力的な響きとなって、豊穣の倍音を生み出している。

 


伝統音楽デジタルライブラリー 三味線 「サワリの話」
https://youtu.be/D4gIgnWMggM

 

この歪みサウンドとそっくりなのが、歪んだエレキギターだ。
まったく同じ音色といってもいい。
次に紹介する動画は、ディストーションがかかったエレキギターのような三味線のサンプルです。
ぜひ聞き比べてみてください。
これを電気的な加工せずとも、アコースティックな生楽器に精妙な施しをして、理想的な音を追求し、さらにここまで大きな音を出してしまう加工技術と発想が、なんとも日本人らしいですね。

 


日本 三味線(義太夫) 演奏「ソナエ」
https://youtu.be/KrDLS6FkqlU

 

西洋では、1930年代初頭になるとエレキギターがロックで実用化されていたが、それはまだ澄みきったサウンドだった。
ところが1960年代後半になるとジミー・ヘンドリックスの登場によってエレキギターサウンドが激変する。
エフェクターディストーションやオーバードライブで歪ませたことにより、江戸時代の日本人が三味線に施したサワリの響きと同じ効果を、電気的な手法で歪ませて豊穣な倍音を生み出し、聴衆に霊的エクスタシーを与えた。
以後、ロックにはかかせない音色となったのは言うまでも無い。
巨大なスタジアムで熱狂するロックコンサート。
それを弾く側も、聴く側も。
現実からかけ離れた陶酔の世界へ導くエレキギターサウンドはこうして生まれた。

 


The Jimi Hendrix Experience Live in Sweden 1969
https://youtu.be/JVE_PiuXWuQ

 

そして、尺八。
海外の人はこのような豊穣な倍音がどうやって鳴り響くのか不思議で中をのぞき込む。
すると、中には何の仕掛けも無いただの竹の筒だと知って驚く。
西洋楽器のような複雑な仕掛けが一切ないにもかかわらず、これだけの音が出ることにショックを受けると。
そのような背景で、小澤征爾氏の指揮により、武満徹氏が尺八と琵琶とオーケストラのために作曲した「ノベンバーステップ」が、1967年にニューヨークで初演された。
尺八と琵琶の豊穣な倍音が、聴衆だけでなくオーケストラのメンバーにまで霊的エクスタシーを与えた。
しかし、すごい時代だったんだな、60年代後半は。

 


003_ノヴェンバー・ステップスNovember Steps 1_2(1967)前半
https://youtu.be/9CeDYLRK0ik


004_ノヴェンバー・ステップスNovember Steps 2_2(1967)後半
https://youtu.be/3SakbvBWWBQ

 

度肝を抜かれたオーケストラの面々の気持ちがよくわかる気がします。
しかし、尺八は本来、ひとりで吹くもの。
尺八の修行に「一音成仏」という言葉がある。
人に聴かせる楽器ではなく、法器と呼ばれる、悟りを開いて宇宙との一体感を得るための聖なる道具という点でも、西洋的価値観からすると不思議でならないだろう。
そしてまた、西洋にはない、日本独特の「除夜の鐘」の響きについても。
西洋のようにきれいな響きの鐘を連打して打った音を聴くのではなく、歪んだ響きの除夜の鐘は一発ドーンと打ったらしばらく静かにその余韻に耳を澄ます、この違いは大きい。
意図的に鳴らすことはできないけど、水琴窟もそうですね。
この「一の中に多を聴く」という、日本人の音に対する美意識。
これはまさに、秋の諸行無常なる倍音の響きもそうだと思う。
日本人は、その聞こえてくる虫の音そのものも愛でるが、実は聞こえても無い可聴域を超えた、音と音のあいだにある豊穣な倍音、高次倍音の無とか空の音まできいているんだと思う。
武満徹氏は、このような日本人の世界観を「ひとつの音に世界を聴く」という題名で本を書いているのです。
https://www.shobunsha.co.jp/?p=1176

 

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日本の伝統音楽に浄瑠璃浪曲義太夫といった不思議な価値観を持った語りの世界がある。
その声は、ダミ声、しわがれ声、ハスキーな声などと表現されたりもるが、日本の伝統では「虹色の声」と表現されてきた。
声そのもに、豊穣な倍音を自身に与えつつ、聴衆をも魅了していくのだ。
わたしも今まで、浄瑠璃のよさもさっぱりわからずでちゃんときいたがありませんでしたが、やっとそのおもしろさがわかってきた感じ。
こちらの動画では途中から琴も出てきますが、三味線を伴ったメリスマだらけの歌とダミ声の歪んだ義太夫語り。
そんな虹色の声、特に6分辺りからの声質に注目してみてください。

 


浄瑠璃 「壇浦兜軍記」 阿古屋琴責の段 3
https://youtu.be/sPW_u_FUXWA

 

またまた脱線、ちょっとここらで休憩しましょう。
この虹色の声、誰もが知るもっとわかりやすい人を思い出しました。
ルパン三世の銭形のとっつぁんが叫ぶ「待てぇ〜ルパ〜〜ン」のあの音感というか音質。
あえてきかなくても頭ん中できこえますが、どうせ聴くなら初代銭形警部の納屋さんで。
ではさっそくきいてみましょう。

 


いいとも ザックリいきまショー 声優 納谷悟朗
https://youtu.be/h15qsRZNaBk?t=222 ←開始位置【3分42秒から】

 

これは日本だけでなく、西洋でも虹色の声を売り物とするようになっていく。
ルイ・アームストロングの声は、浄瑠璃系の声だ。
日本人はその豊穣な倍音を大切に保持してきたが、世界の多くの人は長らく忘れていただけだった。
それが今、世界中で古代の音感に戻りだしたということだったのだ。

 


Louis Armstrong - What a wonderful world ( 1967 )
https://youtu.be/CWzrABouyeE

 

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このような声を広めるきっかけとなったのは、なんとビートルズだという。
ポール・マッカートニー曰く、ヘビーメタルやハードロックの第1号は、我々の「ヘルター・スケルター」だと語っている。
ポール・マッカートニーがイギリスのザ・フーに触発されて作ったと言われる「ヘルター・スケルター」は、ビートルズの10枚目のスタジオアルバム「The Beatles(通称:ホワイトアルバム)」(1968年) に収録されてます。

 


Helter Skelter (Remastered 2009)
https://youtu.be/vWW2SzoAXMo

 

そして、声明の倍音へ。
浄瑠璃のような低いダミ声で唸りながら、その上に高次倍音を乗せていく喉歌の神秘はよく知られている。
モンゴルのホーミーに、トゥヴァのホーメイは有名ですね。

 


Mongolian voice : Khoomii
https://youtu.be/VKqP2skE6-Y


Amazing throat singing. Two notes at the same time!!!
https://youtu.be/EGlXW-GqKko

 

“モンゴルのチャンドマニ村はアルタイ山脈のふもとにある遊牧民の村。ここはホーミーのふるさとで、多くの優れたホーミー唱者はチャンドマニ村の出身です…”
http://akira-sakata.sblo.jp/article/35086223.html

 

ナレーションの「ホーミーにはなんと6つの種類があるといいます…」ではじまる、坂田明氏が1990年の11月にテレビ番組で訪れたチャンドマニ村で、ホーミーと共演したときの映像がこちら。

 


6 methods of the khoomii(Throat Singing)
https://youtu.be/NNVrmW0VL2I

 

つづいてこちらの動画では、7つの倍音歌唱法を紹介。
とてもわかりやすいです。

 


Seven Styles of Overtone Singing (Tuvan Throat Singing)
https://youtu.be/7zZainT9v6Q

 

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20世紀初頭の神秘思想家、グルジェフの自叙伝「注目すべき人々との出会い」を、演劇界の巨匠、ピーター・ブルックが1979年に映画化している。
その冒頭シーンで、山々に向かって多くの音楽家が演奏を披露していく。
山々がその演奏に応えたものが勝者というコンテスト。
多くの演奏家が次々に出るが、山々は沈黙をつづける。
最後に出てくるのが喉歌だ。
以下の動画で10分辺りから。
その喉歌に山々が木霊し、聴衆の前で見事に倍音が響き合い、勝者が決まる。
その聴衆の中に少年グルジェフの姿があり、彼の伝記がはじまるという映画。

 


Meetings with Remarkable Men
https://youtu.be/uYhv0O0gUTk

 

ここまで一気にだだだっと見てきましたが、どうやら倍音といっていろいろあり、大自然が感応したり霊的エクスタシーとなるのは、歪んだ音やダミ声のような低い声を発しながら上に乗ってくる高次倍音の豊穣な響きに秘密があるようです。
ここまでは、様々な音や声で流れを追ってきました。
わたしはこの後につづく、縄文人がつかっていた石笛の霊力についてとても興味があります。
ということで、この本の魅力と共に感じることを、次回はゆっくりと書いてみようと思います。

 

 

 

 

 

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