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内なる自然に還る惑星人たち

 
小笠原を舞台にした、生半可ではないドキュメンタリー映画だった。
タイトルは、プラネティスト

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観る前から、小笠原を少しは知ってる身として、あぁなるほどくらいに思ってたけど。
観た後には、びったりなフレーズだと感動するまでの映画レビューですが、その前に体験談から。

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20代前半で、まだ世の中を知らない世間知らずのわたしが海外の放浪の旅から帰ってすぐの1993年夏にたどり着いた島が、東京から1000㎞を船で27時間かかる小笠原の父島だった。
まだネットもない時代、観光ガイド本にも載ってない未知の日本がまだあった。
誕生以来大陸とは接することなく太平洋に浮かぶ、南の島の夢のような楽園。
想像を絶しすぎて、何も知らないまま、着いて一日目から独りよがりの探検がはじまり、あまりにも美しく凄まじい厳しさの大自然に吹き飛ばされ、死にかけました。
以来、謙虚に、島への順応と、自然への畏敬の念が、わたしを目覚めさせていきました。
現代社会に順応した人生で、自然はわたしを受け入れてくれるだろうか、あるいはわたしが自然に還るにはかなりの時間がかかるだろうと、変な壁を作っていたのです。
わたしは、まだ、グランブルーも観てないしジャックマイヨールの存在も知らずに島に来たので、ちょうどドルフィンスイムが流行り出す直前の時代で、着いてからばんばん情報が入ってきました。
 
そしてすぐに、宮川典継さんと出会ったのです。
この映画の骨となる人物。
毎日ゾディアック号に乗るとお金が持たないので、日頃は各地のビーチから素潜りで熱帯魚やウミガメと泳ぎ、島でバイトしたりして、ときどき船で沖に出てイルカと泳ぐ生活がはじまった。
最初、イルカと水中で出会った瞬間、未知との遭遇で、宇宙人と出会った感覚やら、緊張やらで、ぶっ飛んでしまい、近づくことはできませんでした。
毎日海に潜ってたら、プールでカナヅチと思い込んでた身体が、ここでは素潜りで1時間以上ビーチに戻らず泳ぎつづけても平気なことに気づく。
潜ると耳が痛いしすぐ浮上しちゃうから人間はなかなか溺れないとわかり、深海の沖でもグランブルーな世界を空を飛びように泳げるようになったり、浅瀬では美しい海底の魚や貝やサンゴを見たいがために日に日に深く潜れるようになり、気づけば自分でもびっくり。
そうやって深く潜れるようになり泳ぎにも自信がつくと、イルカたちとも気負わず自然と接する余裕が生まれ、イルカはそうゆうのが敏感だから、一緒に長い時間遊んでくれるようになった。
イルカだけじゃないよ、いろんな生き物と会話して、山でも海でもいろんな自然の中で彼らと同じときを過ごしたんだ。
スコールや虹や、満月と新月の夜の違い、天の川に手が届く星々や、毎日の夕日。
この映画の軸には、そんな夕日が毎日撮影されたとわかるカットが挿入され、運がいいと見れるグリーンフラッシュが、何度目かの夕日のワンシーンとして、同じ感動をあじ合わせてくれた。
宮川さんは、ドルフィンスイムを通じて魔法の言葉を教えてくれた。
内なる自然に還る。
それまでの人生からすれば衝撃的すぎる言葉だったけど、すでに自分の身体で体感し、その意味がわかってしまっていたので、言葉を超えて打ちのめされた。
あんなに自然から離れた現代社会から、着いてわずか数日、数週間で、もともとわたしの中にあった内なる自然のスイッチさえ入れば、身体はあっという間に思い出し、そこへ還ることができるんだと思い知らされました。
 
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映画では最初のゲスト的登場者で、ディジュリドゥー奏者のGOMAが、事故で失った記憶障害から、この島で宇宙の根源にまでつながるような体験から、涙を流して喜ぶシーンに、わたしまで鳥肌が立って号泣してしまいました。
つづくゲスト的登場者の窪塚洋介も、一度ならずとも数回死にかけているから、子連れの彼らしく淡々と島に入っていきながらもボソッと、プラネティストネダーダイとつぶやく。
まだ映画は前半だけど、やるなぁと思った。
 
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そのあとのゲスト的登場者はみんなミュージシャンでそれぞれ大自然の中で演奏するのは、豊田監督のエゴを感じてしまったけど、ときおり挿入される小笠原のドキュメンタリーと宮川さんの語りが、その思いや言葉一つ一つがどんどん深まっていって、ビッグバンのような爆発するくらいの境地になった。
小笠原を知らない人がこの映画を観たら、わかりやすい観光ガイドの一切無いありのままをとらえたドキュメンタリーをどう感じるのか、興味がある。
きっとやらせではないこの不思議な魅力が詰まった完成度の高い映画で、いつか必ず行きたくなるんじゃないかと思ったりした。
豊田監督は初めてで観るまで半分疑ってたけど、そんなわたしをただのノスタルジーではなく、ぐっと引き寄せ打ちのめしてくれる作品を作ってくれ、わたしをスクリーンの中の小笠原に連れて行き、27年ぶりの再訪であの宮川さんと再会させてくれてありがとう。